恒川光太郎にはハズレがない

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

そろそろ秋も終わりの気配ですが、本日はいつまでたっても秋から抜け出すことができないダークファンタジー小説『秋の牢獄』のご紹介です。
11月7日水曜日。主人公の女子大生藍は、この日を境に突然、同じ一日を何度も何度も繰り返すという時間の狭間に落ちてしまいます。毎日同じことを体験しなくてはならない悪夢のような日々。しかし25回目の11月7日、彼女は自分と同じ、この異世界の記憶を共有できるリプレイヤーたちに出会います。自由きままに暮らすリプレイヤーたちですが、彼らにはタブーがあって・・・、みたいな話です。
まあ、よくあるっちゃあよくある話なんです。でも恒川光太郎さんの話が他と違って素晴らしいのは、異界にとりこまれてしまった人たちが、そこがどんなにひどい世界であっても、その異界に対して、必ず愛しさとせつなさと心強さのこもった視線を投げかけるようになるところなんですね。
それがホラーであっても救いの無いファンタジーであっても、叙情的でどこか懐かしさを感じる物語になってしまうという不思議な書き手さんなんです。大好きです。
ちなみにこの文庫には、表題作の『秋の牢獄』以外に、『神家没落』『幻は夜に成長する』の二編が入っていまして、実は『秋の牢獄』よりもそっちのほうが面白かったりします。『夜市』のときも表題作よりもサブのほうが面白かったんですよ。何でですかねー。